列車の客室内で携帯電話の通話をしてはいけない、というルールが固まったのは、2000年代前半です。それ以来、新幹線車内で通話していいのはデッキのみ、というのが常識となりました。
この常識を破る車両が、東海道新幹線に導入されます。「のぞみ」7号車に設けられるテレワーク向けの「エスワーク車両」です。10月以降、7号車ではスマホ通話やウェブ会議が自由になり、パソコンのキーボードも気兼ねなく打つことができます。
東京―新大阪間は約2時間半。この間、自由に通話できないことについて、不満の声は以前からありました。デッキで通話できますが、列車の走行音が騒がしいですし、立ったままでは落ち着いて話せません。
その点、静かな客室内で座って通話ができる「エスワーク車両」は、電話をよく使う人には画期的です。ウェブ会議もできるので、移動時間を打ち合わせに使えると、歓迎するビジネス客は多いでしょう。
東海道新幹線では、10月以降の週末の一部「こだま」で、「お子さま連れ専用車両」も設けます。東海道新幹線はビジネス客が多いため、子連れで乗りたがらないファミリーも多いですが、専用車両なら気兼ねなく利用できるでしょう。
列車内では長時間の静粛を求められ、そのために利用を避けている層は確実にいます。ビジネス客は拘束時間が短い飛行機を使うでしょうし、ファミリーはマイカーを好みます。こうした層に新幹線を使ってもらおうというのが、新たな施策の狙いとみられます。
ただ、ビジネス客とて、衆人環視の車両内でウェブ会議はやりづらいでしょうし、子どもが活発なファミリーは、子連れ専用車両でも躊躇(ちゅうちょ)します。他にもペット同伴など、他人を気にせず過ごせる環境を求める客はいますが、そうした空間は新幹線に用意されていません。
こうした人たちが本当に求めている設備があるとすれば、個室でしょう。
かつては、東海道新幹線の2階建て新幹線の1階に個室グリーン車がありました。しかし、現在は廃止されています。個室は輸送効率が悪く、大量輸送を旨とする新幹線には向かないとみなされたためです。
しかし、旅行者の多様なニーズに応えるなら、個室は切り札になり得るでしょう。VIPなども含め、多くの人が安心して利用できます。将来的に検討してほしいところです。
(旅行総合研究所タビリス代表)